研究内容Research

マクロファージを始めとした免疫細胞のダイバーシティの研究

 マクロファージはその発見以来100年以上もの間、一種類の細胞しかないと考えられており、サブタイプが複数ある他の免疫細胞と比較すると日陰の存在でありました。しかし近年、徐々に再度スポットライトが当てられ始めています。

 その中でも、最近のトピックの1つとして、M1・M2マクロファ-ジが挙げられます。しかし、私たちはマクロファ-ジはM1・M2ではなく更に詳細なサブタイプに分かれると仮定して研究を行いました。その結果、アレルギーに関わるサブタイプはJmjd3により分化する事(Satoh T. et al, Nature Immunology 2010)、またメタボリックシンドロ-ムに関与するサブタイプはTrib1より分化する事(Satoh T. et al, Nature 2013)、さらに、線維症の発症には新しいマクロファージサブタイプであるSegregated nucleus Atypical Monocyte (SatM)が必須である事(Satoh T. et al, Nature 2017)を明らかにしてきました。これらの研究から、その細胞の発見から1世紀以上1種類しかないと考えられていた概念に終止符を打ち、この細胞には多様性がある事を証明しました。現在私たちは病気ごと多種多様な“疾患特異的マクロファ-ジ”が存在している可能性を考えています。また、私たちの体には未だ見つかっていない“疾患特異的マクロファージ”が存在しており、各々が対応する疾患が存在していると考えられます。これらの疾患特異的な細胞を標的とした創薬は、その疾患特異性の高さから、副作用の少ない創薬応用につながることが期待されます。

 そこで、私達はマクロファージだけでなく、その範囲を広げて“ミエロイド細胞の多様性”をキーワードとし、新しいミエロイド細胞サブタイプと様々な疾患との関係性に着目し研究を展開しています。

免疫系-非免疫系細胞のクロストークの解明

 疾患に関与する免疫細胞は様々な種類が存在していますが、その全てが、自身が働く職場の周辺環境(上皮や線維芽細胞などの非免疫系細胞)からの影響を受け、増殖・活性化・遊走を行います。これまで同定した疾患特異的マクロファージが非免疫系からどのような影響を受けるのか、またその非免疫系細胞では疾患の発症・増悪時にどの様な変化が起きるのかを研究してきました(Fukushima K*. , Satoh T*. et al, Immunity 2020)、(Kawasaki T. et al, PNAS 2021)。

 そこで、私達は疾患特異的マクロファージとそれに影響を及ぼす非免疫系とのクロストーク、更にその非免疫系の変化に着目し研究を展開していきます。

場の研究【間質】

全身すべての臓器、組織は実質と間質によって構成されています。臓器、組織機能の中心となっている部分が実質であり、その周辺にあり実質を支持する部分が間質です。例えば、肝臓では肝細胞が実質を担い、類洞を形成する血管内皮及びその周囲の星細胞、免疫細胞、結合組織、グリソン鞘部の血管、胆管、リンパ管、神経などが間質を担う細胞であります。各臓器・組織における実質細胞が機能変容を起こした際には、疾患発症に直結するため、これまで疾患研究の多くは実質細胞に焦点を当てられてきました。一方、特に疾患発症の際に、微小環境の変化を担うのは間質に存在する多様な細胞であり、個々の細胞の機能的重要性も最近次々に解明されつつあり、それらを標的とした新薬の開発にも期待が集まっています。しかし、実質のみの研究や間質にいる個々の細胞単体の研究では疾患の完全理解には到底つながることはありません。実際、正常から疾患に至る過程の中で、どの様な多種多様な細胞間相互作用(クロストーク)が調節し合い 介在し、どの様な分子メカニズムで疾患に関与しているかという病態メカニズムの全貌を解明する上で基本となる知識ですら、既存の学術領域では捉えられていないのが現状です。そこで、間質に存在する多種多様な細胞間クロストークを解き明かすことで間質の変化を統合的に捉え、そこから実質機能に迫る事こそ、疾患の本質の全貌解明につながると考えています。そこで本研究では「間質」を切り口として、その“場”を構成する主要成分で分類される4つの領域(①免疫系②神経系③血管リンパ管系④間葉系)が、領域横断的に研究を行うことにより、病態の発症・進展において、間質に時空間特異的に出現する多様な細胞群の細胞間クロストーク(複雑系細胞クロストーク)を明らかにすることを目標としています。さらに、間質性細胞間クロストークの変化が実質に与える影響を明らかにすることにより、疾患の進行機序の全貌解明を目指します。このようにこれまで支持組織としてしかとらえられていなかった間質を再理解し、再定義すること、すなわち間質リテラシーの構築を狙います。

      スクリーンショット 2022-06-08 000725.jpg

ヒト疾患との関係性

 マクロファージやそれ以外のミエロイド細胞はマウスとヒトでその分化及び性質が異なることが多くあります。臨床応用や創薬化にむけて、ヒトマクロファージやヒトミエロイド細胞の研究にも取り組みます。更に、疾患の抑制に効いている細胞には増殖させ、疾患の発症増悪に関与している細胞に対しては生体内から排除する方法を開発し、それらを医薬につなげることを目標とします。

自然免疫に関する基礎・応用研究(疾患の発症や増悪に関わる遺伝子の探索、その発現調節による創薬研究)

 これまで私達は自然免疫の研究を行ってきました。自然免疫は受容体を介して、侵入してきた病原体や異常になった自己の細胞をいち早く感知し、それを排除する仕組みです。またこのシステムはがん、アレルギー、生活習慣病などの発症や増悪にも関わっています。私達の体と密接な関係があるこのシステムですが、未だその全貌は明らかとなっていません。自然免疫で明らかとなっていないブラックボックスを一つ一つ繙き、そこから得られた新たな現象や分子を創薬応用することにより、皆様の生活をより良いものにすることを目指します。